2013年1月22日火曜日

サバティカル日記14 メルズーガ~フェズ

 昨夜、途中まで書いてそのまま寝てしまった。

 パートナーの駱駝はジミーヘンドリックスと名乗った。そう言えば駱駝の顔をよく見るとジミヘンに似ている。駱駝という種がジミヘン的な顔をしている。

 ジミヘンとノマドの男、ユーゼフ、彼らとともに砂漠に入っていった。ノマド、サハラのことをいろいろとユーゼフは英語で話した。この向こう側にブラックサハラが広がり、そこに自分のファミリーがいる。母親ひとりに男兄弟が8人。父親を入れると全部で男が9人。姉妹はいない……。ノマドがシャワーを浴びる(こう言った)ことはほとんどない。せいぜい2カ月に一回、からだを洗えるかどうかだ。でもこんな寒いときはとてもからだを洗う気持ちはおきないよ、と笑う。30代半ばの男なのだが、一番下の弟は1歳だという。
  ノマドだからブラックサハラを転々としている。俺はまったく学校には行っていない。行けるわけがないんだ。学校なんてないんだからな。俺はジミヘンと一緒に言葉を学んだよ。今ではベルベル語、アラビア語、英語、フランス語、スペイン語、少しだけイタリア語を話せる……。そしてたくさんのジミヘン自慢をした。ジミヘンを知っているか?名前だけね。聞いたことはないけど、凄いんだろ?

 モロッコのサハラは横70キロ、縦25キロ。そして指さしながらあの山の向こうがアルジェリアだ、と。ここはもうアルジェリアとの国境地帯である。砂漠と聞いて多くの人たちが想像するのはサハラだ。世界にはたくさんの砂漠があるが、草一本生えていない細かな赤茶色の砂漠は、ここサハラのものだ。僕もいろいろな砂漠に行ったが、やはりサハラこそが砂漠らしい砂漠である。けれど、ブラックサハラのように砂のないサハラもある。

 サハラは、北アフリカ一帯に広がり、さらに広がりつつある。エジプト、リビア、アルジェリア、モロッコ、マリ……。地球温暖化はもちろん、森林伐採が大きな影響を与えて広がっているわけだが、一方ではそれを観光に用いようともするわけだし、私のように足を運んで駱駝に乗ったりもするのだ。あと千年後、どこまで砂漠は広がるのだろう。

 砂漠は想像以上に美しく、凄かった。それだけに怖さがある。さらさらの砂は足を掬い取り、どこにでも入り込んでくる。防塵防滴のカメラを持ってきたから良かったが、そうでなければ壊れている可能性も高い。少しでも高いところに登ると風が大変な勢いで吹いている。何度も転げ落ちそうになっては、踏ん張ってさらに上に登ろうと試みた。けれど、ずるずると砂に足を取られる。砂地獄とはこういう砂のことを言うのだろうと思った。
  砂漠の美しさは恐怖と裏表である。瞬く間にその表情を一変させる。昼間は熱くなっている砂だが、日が落ちるやいなや異様なほどの冷たい氷へと変わる。砂は気管にも入れば、身体中のあらゆる凹部に入り込んでくる。服を着ていてさえ入り込む。砂以外になにも見えないところまで来ると、これはひとりになったらもの凄い恐怖を感じるのだろうとヒシヒシと思う。
  だがノマドたちは夜、砂漠地帯を歩くのは平気だという。ユーゼフは昨夜も砂嵐の中、朝の三時まで歩き、3時間寝た、と言っていた。「月の砂漠」の歌は嘘だと思っていたが、そうでないことが分かった。

 アトラス山脈の天候悪化ゆえにナイトバスが出ない、昼間に変更になったとのことで、翌21日朝、メルズーガを後にし、フェズへ。10時間のバスの旅。しかし、途中トイレ休憩が一回しかない。バスの中にトイレはない。でもモロッコ人たちは皆、平気なよう。凄い膀胱持ちが揃っている。

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