2013年1月25日金曜日

サバティカル日記16 シャウエン



  行くところ行くところでシェフシャウエンという場所を勧められるので、来てみた。確かに静かで素敵ではある。青と白のペンキがメディナ中に塗られていてメルヘン的と言われるのも分からなくはない。でもメキシコの方が遙かに、それを言ったらメルヘン的だよなと思う。メキシコには色彩の眩暈がある。
   今泊まっているところはスコットランド人が経営しているB&Bだが、安くて良いけれど、いかんせん暖房がなく、寒くてベッドから出られない。ホテルでも三つ星クラスだと暖房がないところが多いのだとか。ここは三つ星どころか一つ星か?

  昨日はスッキリと晴れていた。シャウエンのメディナ内にまで徒歩で出て、飯を食ってしばらくすると暗くなってきたので帰ろうと思い歩き出す。が、どこを歩いているのか分からなくなり、15分で戻れるはずのところを山道を歩きつつ1時間掛かって、やっと辿り着いた、と思った。けれど、そこからどこにいるのか分からなくなり、たまたま歩いている人に聞こうとするが、分からない言葉で話しかけられ怖くなったのか、振り向いてもくれない。結局、近場でうろうろうろうろ、30分近く掛かって見覚えのある建物に近づくことができた。
  ここは青と白の幻惑がメディナ内にあり、グルグル回って、出られず、次に近くに戻ってからは茶系の色がずっと続くのでどこか分からない。色彩が同じだと幻惑感が増す。それは他のモロッコのどこでも一緒。特に砂漠地帯に行くと、完全にカスバ色で、土色しかないようなところに四角い土の建物が並んでいるから、さらに分からなくなる。

  今日は雨。
  寒くて雨が降っていると部屋に籠もったままどこにも出たくなくなるが、近くに飯を食うところがない。バスのチケットも購入する必要があって外に出た。傘を買おうと思ったがどこにも売っていない。バスターミナルまではいくらでもタクシーが走っているから捕まえればいいと言われて出たが、タクシーは一台も通らず。結局、雨の中を濡れ鼠で30分掛かってバスターミナルに辿り着く。ダウンジャケットが濡れてペラペラになり、それでもまだ傘は手に入らず。

  明日のメクネス行きのバスの時刻を聞き、チケットを買った後、雨の中を再び歩くのが嫌になって隣りのカフェに行く。と、薄暗い中に店主がポツリと立っている。営業中?と聞けば、にたりと笑ってなにかぼそぼそと言う。どこのカフェも同じで、クソ寒いのに扉を開け放ち、暖房なんて当然のようにあるわけもなく、電気も点けず、客は皆ジュラバを着てネズミ男のように目を光らせる。

  最初は歩いた後の熱もあり、異常なほどたっぷりと砂糖が仕込まれたお茶が美味しく感じたけれど、次第にダウンジャケットに浸みた雨が下着にまで達し、冷えてくる。これはマズイと歩き出そうとするが、雨は一向に止む気配なく、なんとかタクシーを捕まえてメディナに。メディナには傘があると聞いたからだ。メディナまで来ないと傘さえ手に入らないとは驚きだが、なんとかこうして傘を手に入れた。傘を求めて濡れ鼠になり、カフェに寄り……。傘がなぜ必要かと言えば、明日のホテルからバスターミナルまで、荷物を持って再び濡れては歩けないと思い込んだ。タクシーが捕まるとは限らない。

  寒くていられないから、再びカフェに入った。。このカフェは中心地にあるカフェで、客も大勢入り(だが女性客はひとりもいない)、男たちはみんな、テレビでサッカーを見ているから少しは外より暖かい。それでも扉は開け放たれたままだ。モロッコでは、カフェは男たちが皆でテレビを見る場でもある。夕方になるとぞろぞろと映画を観るためにジュラバ男たちが集まり出す。ベルズーガのあるレストランに入っていると、テレビが映らなくなってしまった。途端に男たちは皆出ていって、別のカフェで映画を観だした。まるで力道山を見ていた日本人と変わらない。ひとりも女性はいない。思えば店主もみんな男だった。

  傘を差して街を歩いてみる。石畳が滑り、足が取られて水たまりにドボンと浸かる。歩いているときは良いが、止まると冷えてくる。が、山が煙って温泉地に来ているような気分になって何となく気分良く街を歩き続ける。雨が景色を失わせるとは限らない。雨は晴天時とはまったく別個の表情で微笑むが、一方、僕の手はかじかみ、足の指はどんどん冷えてくる。

  それでも歩く。見る。匂いを嗅ぐ。耳を澄ます。

  モロッコの音楽が染みてくる。再びカフェに入り、寒さに震えながら、音楽と雨の音を聞き、幻惑の青い街を見ている。

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