2013年1月31日木曜日

サバティカル日記 19 エッサウィラ

 エッサウィラで二日半過ごす。

 多くの町がそうだが、この町は特に観光地とそうでない場所にハッキリと分かれている。ホテルの主人は地図を指さし、この地区は夜になると貧民区で危険だから行くな、という。観光区域には売らんかなの態度の人たちがウヨウヨいるが、区域を外れると、いなくなり、顔付きも変わる。着ている服もまったく違う。エッサウィラにも城壁で囲まれた旧市街、メディナがある。その旧市街地には外側、内側ともにいくつものゲートがあって、さまざまに隔てられている。外と内が違うのは当然として、内側でもゲートを潜る度に大きく雰囲気が変わってしまう。完全に城壁の外側に出てしまえば一変し、内側の華やかさはまるでなくなり、生活臭さが漂い、ちょっと殺伐とした感覚になる。しかし、その内側はなんとも薄っぺらな世界だ。そしてフランス人がたくさんいる。

 観光地はなにかがあるから観光地になった。風景や歴史遺産や食事やら、際だった特徴がその場所を観光地化させる。そもそも人が集まって来やすい場所、あるいは集まった場所だったから、流通はお手のものという場所柄ではある。しかし観光客の振る舞いと賃金格差が、ここに住む人たちの一部をどんどん嫌な人たちにしていくのだろう。成り上がってやろうと思う者、あいつら良い思いしやがって、と思いながら観光客を見る者。なんとかして、持っている金を巻き上げてやろうと思う者。そして中には真摯に人間対人間の付き合いができる者がいる。

 この前、ツイッター上でイスラム社会の男性優位についてほんの少しだけ触れたら反論してきた人がいた。あらた真生もイスラムの女性たちが黒服の下でどれだけおしゃれをしているか、知っていますか?と書いてきた。それでさらにその人のツイートを見ると、私のことを「たまに海外に出ると知ったかぶりになる、まるで有閑マダムみたいだ」とまで書いている。なるほど。これが人なのだなあ、と面白かった。自分が知っている範囲を絶対的なものだと思い込む。海外に出て、世界を知っているように思ってしまうが、ある範囲を脱していないからその世界が絶対基準になる。
  旅をしても、海外に出てもこれではまったく意味がない。日本人はすべてをフラットに見る習慣がない。範囲が狭い。だから海外のプロパーと言ってもはっきりとアメリカ専門家、中国専門家……等々に分かれていく。

 日本について考えてみたい。日本は完全に建前は男女平等である。しかし、それでも男性優位社会であることは揺るがない。日本人の女性たちは服装の制限はないから女性たちは皆、おしゃれかどうか? 男性優位が謳われている宗教の元で、どれだけそんなに男の尻に敷かれてなんかいないと言っても、精神的な面では男は女に組み敷かれるものだし(どの国でも同じだ)、外面はやはり圧倒的に男性優位である。態度にも強く表れる。男たちは傍若無人な人が多く、しばらくぶりで、二日に一度の割合でつかみ合いの喧嘩をしている男たちを見たが、ここは肉体優位社会でもある。子供たちでも3組は殴り合いの喧嘩を見た。無様な姿を晒しているのは物乞いでもない限り、みんな男だ。肉体の優位はともかく精神面のひ弱さが浮かび上がりもする。イスラム社会に於いて、戒律に対し抵抗しておしゃれをする人も、美意識からおしゃれを求める人もいるだろう。しかし、戒律に縛られた社会では、そう思ってもできない人、したいとも思わない人たちの方がずっと多いのが現状なのではないか? 女性たちの服装の下を覗き見ているわけじゃないから分からない。けれど、日本の状況を思えば、人によって大きく違うし、かつ戒律面での縛りは大きいはずだ。かつ、イスラムならば国によっても大きく基準が変わるし、シーア派とスンニー派ではずいぶん違う。

 ここは芸術家の街であり、グナワ音楽の発祥の地でもあるという。確かに音楽はそこかしこから聞こえるし、ライブを謳っているレストランが多い。ギャラリーもそれなりにある。けれど、僕が入ったひとつのレストランでの演奏は酷かったなあ。もうひとつのレストランの演奏は素晴らしかったんだが……。ある楽器店の店主の顔付きが良かったので話をする。やはりエッサウィラはどんどん悪くなってきたと言う。そこにスコットランド人の絵描きも加わって、いかにダメになってきたかを語っていた。観光客が集った時に、どういう方向性を生み出そうとするのか、そこに文化力が背景となるのだろう。メクネスのような高い文化性や人間の誇りを感じさせる街もあるのである。同じ国にもかかわらず、だ。
  もともとフランスの植民地だったので、フランス語が通じるというメリットがフランス人たちにはあってフランス人が集ってくる。フランスに比べれば物価は遙かに安い。エッサウィラは気候も穏やかで寒暖の差もさほど大きくないそうだ。そして海辺だから気分は良い。
  ただ長居は無用だ。

 ということで、昨夜遅く、エッサウィラからマラケシュ、カサブランカを経て、ダカール入りした。
  今は朝11時だ。寝たのが3時だったからな。今日でちょうど一ヶ月が経過する。さて、今日はどんな日か。まだダカールの街をまったく見ていない。


0 件のコメント:

コメントを投稿