2013年1月26日土曜日

サバティカル日記17 シャウエン⇒メクネス


青いシャウエンをあとにして、メクネスへの旅。

朝から土砂降りの雨。とにかく寒い。暖房はもちろんない。
 乗ったバスが、地元の人たち用のバスだった。国営のバスと値段はほぼ変わらないのに、なんでこんなにボロいの?というくらいのおんぼろバス。出発前にはエンジン部分を直している。叩いたり、蹴飛ばしたり、吹かしたりしながら、やたらと胡散臭い顔した連中がみんなで笑っては、頬をくっつけあっている。もちろんみんな男。

走り出すと、妙な音がする。大丈夫なのかな、このバス? と思いながら乗っている。ギシギシ軋むのはもちろん、やたらとガスくさい。シートは垢がこびり付いているかのようにテカテカ光り、そこかしこが破れて中身がはみ出している。シートが倒れたまま戻らない座席やガムのようなモノが挟まっている座席が目に付く。そこかしこから雨漏りがしている。水滴をよけなければならない。よけないとさらに冷えてしまう。それに窓が完全に閉まらないから風が吹き込んでくる。寒さはピークだ。足の指の感覚がなくなってきて、ラジオから流れる幻惑音楽の中、眠さが増してくる。

男たちは、垢のこびり付いた服を着て、なにが珍しいのかオレの顔をじろじろ見る。そしていろいろと話しかけてくるがさっぱりなにを言っているかはわからない。わからないが、なんとなく親しみを持ってくれているようだ。子供たちがなんでこんなに多いのか?というくらい多い。だからやかましい。まるでガキどもの叫び声で作られた合唱団のバスのよう。

途中で乗り換える必要があるのだが、言葉が通じないから、場所だけを連呼する。シディカセム、シディカセム!!チェンジ、チェンジ? シャウエンからシディカセムまで3時間と言われていたが、実に4時間30分掛かって着く。途中20分休憩と言っていたようだが、45分も休憩。車掌は知っている限りの英語で対応してくれようとはしてくれる。でも20ミニッツ。ヒア。くらいのものだ。車掌と言っても見ようによっては浮浪者と変わらない。はっは。笑い顔がなかなか良いじゃないか。シディカセムでは隣の男がニタニタ笑って、ここだと指を立てている。追い立てられるようにバスを変える。メクネス、メクネスと連呼。するとすべてはジェスチャーで動く。なんか言っているが、分からないから適当に乗る。で、バス内で再び皆に、メクネス、メクネスと連呼。肯く人々。

どうやらメクネスに近づいてきたようだ。再び、メクネス?と聞くと、そうだと肯く。すかさずメディナ、メディナ!と声に出せば、黙って座ってろ、という仕草。そしてにたっと笑う。オレもにたっと笑う。山谷にでもいるような気分になっている。と、岡林信康の歌が口に出る。
 岡林の歌は単純だなあと思う。なんでこれが受けたのだろう。ディランに影響を受けた拓郎にしても、やはりディランは遠いと思わざるを得ない。モロッコの歌は良い。時間が消えていく感覚。でかい音でバスの運転手がラジオを流している。ラジオの音楽が人々をときどき黙らせる。音楽がまだここでは生きている。老若男女が同じ歌に酔えるのである。もうこんな時代は日本では遠くなった。

 メクネスに着いた。ここからが驚きの連続だった。タクシーはどこだというと親切に案内してくれる。タクシーに乗れば、この住所は分からないと言って降ろされる。分かっているタクシーを捕まえようとするが、みんな分からないと言う。これがモロッコの他の都市ならば適当に乗せられ、なんとなく適当なところで降ろされてしまう。ならば、ということでとにかくメディナ、プラザ、センターに行ってくれと頼む。でなければ、誰も知らないからと言って、乗せてくれない。タクシーの運転手に20ディルハムでどうだ?と聞くと、10で良いと言う。ええ??この距離なら10ディルハムで良いというのだ。他ではまずあり得ない。

プラザに着く。すると音楽隊の演奏があった。これがまた素晴らしい。幻惑感で一杯。ラッパのような音がいくつもいくつも繰り出される。ああ、トルコの音楽のようだと思いつつ、10キロのバッグを担いだまま、聴き惚れる。我に返って、このホテルに行きたいのだけど、と警官に聞けば、フランス語はできないのか?と言って二人の警官が途方に暮れている。すると誰かが近づいてきて、英語で指を指し、向こうへ行ってから誰かに聞けというではないか。その指示に従い、プラザの逆の端に来て聞くと、ここなら知っているから案内するという若者がいた。迷うのは嫌だから案内してもらう。案内されたあと、5ディルハム硬貨を渡そうとするといらないと言う。ウウム。これまたあり得なかったことだ。みんなモロッコでは1ディルハムをごまかそうとするのだから。

 チェックイン。ここの受付の、案内嬢が、モロッコの他の地域では見たことのないようなキュートさ。ちょっと怖そうな女性が多かったが、この子のキュートさには唸った。そして部屋に入ると、驚きだった。素晴らしい!マラケシュ、ワルザザード、メルズーガ、フェズ、シャウエンと回って、こんな素敵なところには泊まれなかった。けれど、二番目に安い。一泊3000円くらいしかしないのである。唸った。

 とまあ、とにかくメクネス。驚きのメクネス。即刻、一泊だけではなく、もう一泊したいのだけど、と頼む。
  ウウム。やっぱり人だ。人ほど嫌な、そして素敵な生き物はない。と思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿